黒井緑朗のひとりがたり

きままに書きたいことを書き 云いたいことを云う

『盛綱陣屋』『蝙蝠の安さん』(国立劇場)

高麗屋親子による十二月歌舞伎公演。 『盛綱陣屋』の佐々木盛綱を白鸚が演じるのは二十八年ぶりとのこと。ほかにも初役で演じる役者が多数のこの陣屋が、なんとも見ごたえある一幕であった。 白鸚ははじめの出から見た目が素晴らしく期待させ、和田兵衛との…

十二月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

十二月の歌舞伎座昼の部は、昨年につづいて玉三郎によるさながら後進育成公演。まさに一年前も、おなじ『阿古屋』を玉三郎と梅枝、児太郎が交代で、重忠や岩永を彦三郎と松緑が演じた。市川中車による定番の新歌舞伎、ふたりの若手女形や玉三郎による舞踊小…

十二月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

師走の歌舞伎座は、大波乱。 『神霊矢口渡』は主要な役がほぼ初役ばかりという新鮮な顔ぶれだが、これがたいへん充実した見応えあるものであった。 お舟を演じる梅枝は、現代的なリアリティとその持って生まれた古風さを見事に両立させて好演。『鮨屋』のお…

キュイ『景観の邪魔』(アゴラ劇場)

綾門優季の書いた『景観の邪魔』の再演。橋本清の演出で、『景観の邪魔Aプログラム』と『景観の邪魔Bプログラム』のふたつのヴァージョンを併演するという趣向である。 この作品の台本は、会場であらかじめ観客に配布された。長短さまざまな二十四のシーン(…

『孤高勇士嬢景清』(国立劇場)

国立劇場の十一月公演は『孤高勇士嬢景清』である。なぜこのような恥ずかしい外題になってしまったのかはわからないが、『嬢景清八嶋日記』と『大仏殿万代石礎』をもとにあらたにつくられた場を加え、「日向嶋」へつなげた台本による。「日向嶋」の場は松貫…

『わだちを踏むように』(BLOCH)

札幌で活動する劇団「演劇家族スイートホーム」は昨年度のTGR新人賞を受賞した団体。第四回公演『わだちを踏むように』(作/演出・高橋正子)の初日を観る。 ひとことで言えば、なかなかの傑作である。 そこでえがかれるのは家族のものがたりだが、家族を家…

吉例顔見世大歌舞伎『髪結新三』(歌舞伎座)

歌舞伎座の昼の部は都合により『髪結新三』のみを観る。これが、なかなか見応えあって面白い。 菊五郎が新三を演じるのは久しぶり。この数年のあいだに菊五郎劇団の新三を受け継いでいくであろう松緑や菊之助も演じたが、やはり当代菊五郎のそれは別格である…

吉例顔見世大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

中村梅玉の部屋子であった中村梅丸が、梅玉の養子となり、あらたに初代中村莟玉を名乗ることが見どころの夜の部。 まずはその莟玉の披露狂言である『菊畑』から。 梅玉の智恵内はかならずしも本来のニンではないだろうが、その持ち味であるなんとも言えない…

『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督)

映画のはじまりからおわりにいたるまで、救いようのない悲しみに満ちている。ホアキン・フェニックス演じるジョーカーこと道化師アーサーの異様なまでのリアリティある演技に、かたときもスクリーンから眼をはなすことができない。 アーサーはまわりからの無…

新聞家『フードコート』(TABULAE)

村社祐太朗が主宰する新聞家の『フードコート』。 独特の表現を重ねる村社の台本、演出による新作である。今回は二度観劇することを前提として予約を受け付けており、長い公演期間のうちから複数のステージを選んで観ることになる。初見は10月5日の夜に、そ…