黒井緑朗のひとりがたり

きままに書きたいことを書き 云いたいことを云う

『わだちを踏むように』(BLOCH)

札幌で活動する劇団「演劇家族スイートホーム」は昨年度のTGR新人賞を受賞した団体。第四回公演『わだちを踏むように』(作/演出・高橋正子)の初日を観る。 ひとことで言えば、なかなかの傑作である。 そこでえがかれるのは家族のものがたりだが、家族を家…

吉例顔見世大歌舞伎『髪結新三』(歌舞伎座)

歌舞伎座の昼の部は都合により『髪結新三』のみを観る。これが、なかなか見応えあって面白い。 菊五郎が新三を演じるのは久しぶり。この数年のあいだに菊五郎劇団の新三を受け継いでいくであろう松緑や菊之助も演じたが、やはり当代菊五郎のそれは別格である…

吉例顔見世大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

中村梅玉の部屋子であった中村梅丸が、梅玉の養子となり、あらたに初代中村莟玉を名乗ることが見どころの夜の部。 まずはその莟玉の披露狂言である『菊畑』から。 梅玉の智恵内はかならずしも本来のニンではないだろうが、その持ち味であるなんとも言えない…

『ジョーカー』(トッド・フィリップス監督)

映画のはじまりからおわりにいたるまで、救いようのない悲しみに満ちている。ホアキン・フェニックス演じるジョーカーこと道化師アーサーの異様なまでのリアリティある演技に、かたときもスクリーンから眼をはなすことができない。 アーサーはまわりからの無…

新聞家『フードコート』(TABULAE)

村社祐太朗が主宰する新聞家の『フードコート』。 独特の表現を重ねる村社の台本、演出による新作である。今回は二度観劇することを前提として予約を受け付けており、長い公演期間のうちから複数のステージを選んで観ることになる。初見は10月5日の夜に、そ…

『オイディプス』(シアターコクーン)

ギリシャ悲劇のなかでも、アリストテレスをはじめその最高峰としてあげることのおおいソフォクレスの『オイディプス王』。この傑作悲劇をイギリスの演出家マシュー・ダンスターがみずから翻案し、さまざまなジャンルの俳優をそろえて現代に問う舞台である。 …

芸術祭十月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

歌舞伎座夜の部はまず『三人吉三巴白波』が通し上演。菊五郎劇団の若手を中心とした配役で、主役のひとりであるお嬢吉三は尾上松也と中村梅枝のダブルキャスト。二日目のこの日は梅枝が演じる。 有名な「大川端庚申塚の場」は毎年のように上演されるが、この…

芸術祭十月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

歌舞伎座昼の部の初日を観る。 『廓三番叟』で幕が開く。いわゆるご祝儀ものたる「三番叟」もののひとつで、その登場人物を廓の傾城、新造、太鼓持ちにあてはめた趣向。なかでも新造を踊る梅枝のうまさが目をひく。古風な魅力と言われつづけた梅枝だが、この…

国立能楽堂『卒都婆小町』(国立能楽堂)

梅若実のシテで『卒都婆小町』を観る。 いわゆる老女物といわれるもののなかでも『卒都婆小町』は哲学的な重厚さのみならず、音楽的、演劇的な変化に富んだドラマティックな一曲。僧をも感服させるほどの仏教的教理につうじていながら、なおも深草少将の霊に…

仁左衛門の『勧進帳』(歌舞伎座)

夜の部の『勧進帳』は日替わりでのダブルキャスト。幸四郎の弁慶についてはさきに書いたが、たいする仁左衛門の弁慶が期待にたがわずきわめて素晴らしいものであった。 ※幸四郎の弁慶についてはこちらで書いたのでお読みください。 秀山祭九月大歌舞伎夜の部…

『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』(世田谷パブリックシアター)

コナン・ドイルが生みだした世界でもっとも有名な探偵であるシャーロック・ホームズは、ドイルの残したいわゆる「聖典」とよばれるオリジナル作品のほかにも、数多くの贋作やパロディ、パスティーシュがつくられてきた。この『愛と哀しみのシャーロック・ホ…

秀山祭九月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

秀山祭昼の部。主宰の吉右衛門が『湯殿の長兵衛』を幸四郎、松緑という次世代へ継承し、みずからは万全の布陣でのぞんだ『沼津』で芸の円熟を見せる。 『幡随長兵衛』は幸四郎の長兵衛で。序幕の村山座の場から、表向きは腰が低くとも、有無を言わさず場を支…

秀山祭九月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

ここ数年は、中村吉右衛門が後継者にその芸を残す場として機能している、九月恒例の秀山祭の夜の部。今年は仁左衛門も加わった重厚な座組で、ひさびさに古典作品ばかりがならんだ歌舞伎座を堪能できる。 『菅原伝授手習鑑』の「寺子屋」はなんども演じてきた…

八月納涼歌舞伎第三部(歌舞伎座)

第三部は、『新版雪之丞変化』一本。映画やドラマなどで昔から親しまれてきたこの作品は、歌舞伎でも近年はおもに澤瀉屋系の役者によっていくたびもとりあげられてきた。花形役者の中村雪太郎(のちに中村雪之丞)が、みずからの両親の敵を討つという基本的…

小田尚稔の演劇『悪について』(RAFT)

小田尚稔の演劇シリーズは、『悪について』(脚本/演出・小田尚稔)の再演。その初日を観る。 舞台にはいつものチェア、コート掛けのほかには白い布団のシンプルなベッド。天井からは照明器具がぶら下がっている。出演は香川知恵子、小林毅大、鈴木睦海、長…

八月納涼歌舞伎第一部(歌舞伎座)

八月恒例の納涼歌舞伎は、例年の通りの三部制。そのなかで唯一古典を出すのが第一部。 『伽羅先代萩』は「御殿」から。主役の政岡に七之助が初役で挑戦。いつもながら言語明晰、意味明瞭であることがよく、ひとつとしてそのセリフが疎かにされることない。「…

『ハウス・ジャック・ビルト』(ラース・フォン・トリアー監督)

なにかと物議を醸すラース・フォン・トリアー監督の最新作『ハウス・ジャック・ビルト』を観る。 カンヌ国際映画祭での上映では少なくない退出者が出た、などという前情報もあり、さぞや凄惨なシーンでうめつくされたシリアルキラーのものがたりなのかと思い…

地点『三人姉妹』(KAAT)

横浜のKAATで上演された地点版『三人姉妹』の再演。観たいと思っていたが、ようやく叶っての観劇。 コミュニケーションの成立にたいする根本的な懐疑を孕んだチェーホフの古典作品。這いずりまわる俳優の身体の「なめらかでなさ」とも言うべきさまが、その困…

七月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

歌舞伎座の昼の部は「歌舞伎十八番」からは『外郎売』、「新歌舞伎十八番」からは『高時』と『素襖落』と、成田屋ゆかりの演目がならぶ。 『高時』は市川右團次の北条高時で。 いわゆる活歴物のひとつとして河竹黙阿弥によってつくられた本作だが、皮肉なこ…

六月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

六月歌舞伎座夜の部は、三谷幸喜作・演出による新作歌舞伎。みなもと太郎のマンガ『風雲児たち』を原作に、大黒屋光太夫らのロシア行きをめぐるくだりを歌舞伎として上演するものである。 開幕五分前になると幕が開き、いちめんに海原がひろがる舞台があらわ…

六月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

こんにちの丸本歌舞伎におけるツートップともいうべき、中村吉右衛門と片岡仁左衛門。古典作品を現代のドラマとして更新することにかけるこのふたりが、それぞれの特色をみせ挑む『石切梶原』と『封印切』が期待に違わず見ものである。 『石切梶原』はこのと…

『Taking Sides』(本多劇場)

加藤健一事務所の主催公演。ロナルド・ハーウッドが一九九五年に発表した、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの非ナチ化裁判にまつわる戯曲。おなじハーウッドの『ドレッサー』ほど有名でも完成度が高いわけでもないが、いまの時代に上演する意義のある作品…

小田尚稔の演劇『善悪のむこうがわ』(ボルボスタジオ青山)

「美術手帖×VOLVO ART PROJECT」として、ボルボスタジオ青山で小田尚稔・作、演出の『善悪のむこうがわ』が初演された。その五月十五日の初日を観る。 哲学の古典的著作からモチーフを得て作品をつくりあげてきた小田尚稔が今回選んだのは、キリスト教的な道…

團菊祭五月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

團菊祭夜の部。大看板の二人は孫の初舞台につきあうのみで、ほぼ若手中心の公演である。なかでも、昼の部で海老蔵が『勧進帳』を出したのにたいし、夜は菊之助が『娘道成寺』で新境地を見せる。 令和のはじまりを祝って松緑と時蔵が舞う『鶴寿千歳』につづい…

團菊祭五月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

令和に元号がかわってはじめての歌舞伎座。五月の歌舞伎座はいわゆる「團菊祭」と銘打たれた公演だが、この数年は團菊にとっての重要なレパートリーを次世代の團菊に受け継いでいくさまを目のあたりにすることができる。昼の部は、若手中心の『対面』、次世…

超歌舞伎『今昔饗宴千本桜』(幕張メッセ)

平成最後のゴールデンウィークのはじまりに、ニコニコ超会議2019で超歌舞伎を観る。三年前に上演されたものに大幅に手を入れての再演とのことである。松岡亮の脚本、藤間勘十郎の演出。 古典歌舞伎『義経千本桜』の世界と、初音ミクのヒット曲「千本桜」から…

ゴダール『イメージの本』(Le livre d'image)

八十八歳の巨匠ジャン・リュック・ゴダールの新作を劇場で観られるという期待と、 そのほとんどが過去の映像、音楽、文芸などの作品からのおびただしい引用のコラージュにより作られているらしいということへの不安と、そのいずれもをいだいて『イメージの本…

舞台の間口について~歌舞伎の場合~

歌舞伎の公演が定期的に行われる劇場は全国各地にあるが、歌舞伎役者にとって歌舞伎座という場所はやはり特別な本拠地だと感じているようだ。それはもちろん歌舞伎を観るファンにとってもおなじだろう。現在の歌舞伎座は二〇一三年に建て替えられ再開場した…

新国立劇場『フィレンツェの悲劇/ジャンニ・スキッキ』(新国立劇場オペラパレス)

ふたつのオペラを組み合わせた、いわゆる「ダブルビル」シリーズの第一弾として、ツェムリンスキー作曲『フィレンツェの悲劇』とプッチーニ作曲『ジャンニ・スキッキ』が取り上げられた。演出は粟国淳、指揮は沼尻竜典。 二十世紀初頭のほぼ同時期に作曲され…

四月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

平成最後の歌舞伎座、夜の部。 『実盛物語』は十数年ぶりという仁左衛門の実盛。七十五歳になっての実盛は最年長記録ではないかと自身が語っているが、その颯爽とした明るさは衰えるどころかいっそう増している。きっぱりと派手に身体が動きながら、それでい…