黒井緑朗のひとりがたり

きままに書きたいことを書き 云いたいことを云う

演劇

『ODESSA』(東京芸術劇場プレイハウス)

三谷幸喜作・演出の『ODESSA』を観る。三谷とってはひさびさの新作舞台ということだが、結果から言えば作品、演出すべてにおいて高水準の出来にこころからの拍手。正直なところ、近年の三谷幸喜の舞台はどこか間延びしたものもあり、役者のそれぞれのノリに…

劇団アンパサンド『地上の骨』(三鷹市芸術文化センター星のホール)

劇団アンパサンドの『地上の骨』の二日目を観る。作・演出は安藤奎。 舞台中央にはたくさんの書類と文具が置かれた丸テーブル。その上手下手にはそれぞれおなじような長机(正確に言えば互い違いにならべられたひとり用の机なのだが)があり、閉じられたノー…

ストスパ4th『エゴイズムでつくる本当の弟』(小劇場B1)

演劇ユニット・ストスパの第4回公演『エゴイズムでつくる本当の弟』を観る。作・演出は白鳥雄介。 ものがたりは白鳥自身の家族をモデルとした実話ベースとのこと、はなからそれを作者自身曝け出してみせるという前提。これが徹底している。 問題をかかえる家…

六月大歌舞伎第三部(歌舞伎座)

六月の歌舞伎座第三部は、はじめは片岡仁左衛門と坂東玉三郎による『与話情浮名横櫛』が予定されていたが、チケット発売の段になって仁左衛門の休演が発表され、演目そのものが『ふるあめりかに袖はぬらさじ』に変更になった。演目そのものが一部のチケット…

青年団『S高原から』(こまばアゴラ劇場)

青年団の代表作であり、おそらく平田オリザの書いた戯曲のなかでも一、二をあらそうであろう名作『S高原から』をひさしぶりに観た。東京公演としてはまだ三日目だが、さすがのすてきな完成度。 この作品の魅力はいくつもあるが、なんといってもさまざまな時…

青年団『忠臣蔵・武士編』『忠臣蔵・OL編』(アトリエ春風舎)

平田オリザ作の異色な忠臣蔵が上演された。これまでも再演を重ねたさまざまなヴァージョンのうち、『忠臣蔵・武士編』『忠臣蔵・OL編』の同時上演である。日本人の意思決定の過程の切実な問題を、忠臣蔵の世界を借りてコミカルにえがいたこのシリーズ。いま…

小田尚稔の演劇『レクイヱム』(SCOOL)

今年最後の観劇に、小田尚稔の演劇『レクイヱム』を選んだ。独特の発話法と劇作で濃密な世界をつくりあげる劇作家/演出家・小田尚稔の、またあらたな境地を垣間見るような、期待にたがわないよい舞台であった。 アクティングエリアの中央にはカーペットが敷…

『夕鶴』(東京芸術劇場)

團伊玖磨のオペラ『夕鶴』は、木下順二の同名の戯曲にたいして「一言一句かえないこと」を条件に作曲された。日本人の手によるオペラとしては類を見ないほど再演をかさね、海外の劇場でも上演されている。オペラの演目としてはもはや「古典」といってよいレ…

前進座『一万石の恋』(新国立劇場中劇場)

前進座の創立90周年を記念しての公演。落語の『妾馬』をもとにした山田洋二の脚本による新作コメディである。もとの『妾馬』からは登場人物などの世界をかりているとはいうものの、展開はかなりオリジナルな展開となっており、これからもくりかえし上演され…

寿初春大歌舞伎第二部(歌舞伎座)

年が明けた歌舞伎座は、先月までの四部制をあらため三部制となった。それぞれ短い休憩をはさんで二演目づつ。第二部の初日を観る。 『夕霧名残の正月』が意外といっては失礼ながらなかなかのよい舞台である。 ひとつには、昨年十一月に亡くなったばかりの坂…

コロナ禍での会食は何人までに制限すべきか

国民には5人以上の会食を控えるように要請しておきながら、みずからは毎日のように夜の会食をつづけている菅総理大臣に批判があつまっている。政府がしめした5人という人数が説得力をもっていないため、批判が殺到するのは当然と言える。 西村経済再生相は1…

十二月大歌舞伎第三部(歌舞伎座)

師走の歌舞伎座にならんだ演目のうち、唯一の義太夫狂言が第三部の『傾城反魂香』いわゆる「吃又」である。台本・演出の完成度もたかく、おおくの名優が素晴らしい舞台をのこしてきた名作。 猿之助の女房おとくはこれまでにも、松本白鸚や中村鴈治郎を相手に…

十二月大歌舞伎第二部(歌舞伎座)

新型コロナウイルスに翻弄された今年ものこるところひと月。師走の歌舞伎座も再開以来の四部制である。その第二部をまずは観る。 『心中月夜星野屋』は二年前の納涼歌舞伎に初演された新作歌舞伎。昨年は金丸座で、そして今年は歌舞伎座でと、新作としては異…

『異邦人の庭』(演劇専用小劇場 BLOCH)

昨年名古屋で初演された刈馬カオスの『異邦人の庭』を、札幌劇場祭TGR2020参加作品としてOrgofA(オルオブエー)が上演。最終日11月29日の昼公演を観る。傑作の戯曲と、それにふさわしい名演であった。 上演時間60分のこの作品は、ある死刑囚と彼女を取材す…

小田尚稔『罪と愛』(アゴラ劇場)

小田尚稔の演劇を前回観たのは、新型コロナウィルスの影響でつぎつぎと舞台公演が中止になっていた3月。8か月を経て、あのころとおなじように感染者が急増しつつあるなかで観ることになった今回の舞台は、タイトルからわかるようにドストエフスキーの『罪と…

十一月歌舞伎公演第一部『俊寛』(国立劇場)

国立劇場第一部は吉右衛門の『俊寛』が「清盛館」つきで上演。 いつもは「鬼界ヶ島」の場のみの上演だが、俊寛が流刑の島にひとりで残る決心をするきっかけとなる妻・東屋の悲劇を「清盛館」で見せておくことで、いっそうドラマの構造が明確になる。のちに瀬…

十一月歌舞伎公演第ニ部『毛谷村』(国立劇場)

今月も国立劇場は二部制で、それぞれ現代を代表する名優が本格な舞台を見せている。第二部は片岡仁左衛門が六助を演じる『毛谷村』である。 いつも上演される「六助住家」の前に、今月は「杉坂墓所」の場が出る。ここは話の筋をとおすだけのなんということも…

十月大歌舞伎第二部(歌舞伎座)

四部制で再開して三ヶ月目の歌舞伎座。その第二部を観る。 『双蝶々曲輪日記』のうちでも屈指の名場面である「引窓」が先月上演されたのにつづき、今月は松本白鸚、松本幸四郎で「角力場」が出る。演劇的なドラマというよりも相撲取りの意地と格を見せるこの…

岡田利規「『未練の幽霊と怪物』の上演の幽霊」

本来であればこの6月にKAAT神奈川芸術劇場で上演される予定であった『未練の幽霊と怪物』の初演は、例にもれず新型コロナウイルスの影響により公演中止になった。それにともない上演される機会を失ったはずのこの新作だが、このたび2日間だけの限定でYouTube…

キュイ『景観の邪魔』(アゴラ劇場)

綾門優季の書いた『景観の邪魔』の再演。橋本清の演出で、『景観の邪魔Aプログラム』と『景観の邪魔Bプログラム』のふたつのヴァージョンを併演するという趣向である。 この作品の台本は、会場であらかじめ観客に配布された。長短さまざまな二十四のシーン(…

新聞家『フードコート』(TABULAE)

村社祐太朗が主宰する新聞家の『フードコート』。 独特の表現を重ねる村社の台本、演出による新作である。今回は二度観劇することを前提として予約を受け付けており、長い公演期間のうちから複数のステージを選んで観ることになる。初見は10月5日の夜に、そ…

『オイディプス』(シアターコクーン)

ギリシャ悲劇のなかでも、アリストテレスをはじめその最高峰としてあげることのおおいソフォクレスの『オイディプス王』。この傑作悲劇をイギリスの演出家マシュー・ダンスターがみずから翻案し、さまざまなジャンルの俳優をそろえて現代に問う舞台である。 …

『愛と哀しみのシャーロック・ホームズ』(世田谷パブリックシアター)

コナン・ドイルが生みだした世界でもっとも有名な探偵であるシャーロック・ホームズは、ドイルの残したいわゆる「聖典」とよばれるオリジナル作品のほかにも、数多くの贋作やパロディ、パスティーシュがつくられてきた。この『愛と哀しみのシャーロック・ホ…

地点『三人姉妹』(KAAT)

横浜のKAATで上演された地点版『三人姉妹』の再演。観たいと思っていたが、ようやく叶っての観劇。 コミュニケーションの成立にたいする根本的な懐疑を孕んだチェーホフの古典作品。這いずりまわる俳優の身体の「なめらかでなさ」とも言うべきさまが、その困…

『Taking Sides』(本多劇場)

加藤健一事務所の主催公演。ロナルド・ハーウッドが一九九五年に発表した、ヴィルヘルム・フルトヴェングラーの非ナチ化裁判にまつわる戯曲。おなじハーウッドの『ドレッサー』ほど有名でも完成度が高いわけでもないが、いまの時代に上演する意義のある作品…

小田尚稔の演劇『善悪のむこうがわ』(ボルボスタジオ青山)

「美術手帖×VOLVO ART PROJECT」として、ボルボスタジオ青山で小田尚稔・作、演出の『善悪のむこうがわ』が初演された。その五月十五日の初日を観る。 哲学の古典的著作からモチーフを得て作品をつくりあげてきた小田尚稔が今回選んだのは、キリスト教的な道…

小田尚稔の演劇『是でいいのだ〜Es ist gut』(三鷹SCOOL)

小田尚稔作・演出の「是でいいのだ」二日目をを観る。出演は串尾一輝、善長まりも、橋本清、南香好、渡邊まな実。 舞台にはいつものごとく、電車のつり革や折りたたみ傘がぶら下がるコート掛け、ちいさな卓袱台と座布団、椅子、天井から吊り下がるランプ、な…

「これは演劇ではない」~新聞家、キュイ、ヌトミック(こまばアゴラ劇場)

こまばアゴラ劇場にて「これは演劇ではない」と題したフェスティバルの二日目を観る。 一本目は新聞家『遺影』村社祐太朗・作演出。 結婚式の披露宴に出席している新婦妹とその夫それぞれが十分あまりの独白をするというシンプルな構成。二人の独白の冒頭三…

オフィスマウンテンvol.5 『能を捨てよ体で生きる』

オフィスマウンテンの新作『能を捨てよ体で生きる』を観る。 タイトルにある「能」という字は、能力というコトバがあるように、なにがしかの事態を可能にする意識的な「チカラ」やそのはたらきのことを表し、その「チカラ」をはたらかせることを「能動的」と…

シス・カンパニー『出口なし』(新国立劇場・小劇場)

新作だけではなく、すでに古典となった戯曲を豪華なキャストでていねいに上演することで定評のあるシス・カンパニーの公演。ジャン=ポール・サルトルの不条理演劇の代表作『出口なし』を小川絵梨子の演出で観る。 ガルサン、イエネス、エステルというなにも…