黒井緑朗のひとりがたり

きままに書きたいことを書き 云いたいことを云う

小田尚稔の演劇『聖地巡礼』(RAFT)

 

小田尚稔の作・演出『聖地巡礼』を観る。出演は助川紗和子、橋本和加子のふたりのみ、休憩なし90分の舞台である。

 

東京に住む織田という女性が、学生時代の友人の結婚式に招かれ八戸へ短い旅行をする。そのおりに恐山へ立ち寄る織田の体験を追いながら、そこにもうひとりの女性の独白をおりこみ、パラレルにものがたりは語られていく。

いくつかのポイントを共有しながら進むそのふたつの語りから、観客は自分の意識のなかで当然のようにひとつの流れを編んでいくのだが、それがミスリードであった可能性が少しづつ明らかになっていく。

積み重ねられた空き缶にひとつのちゃぶ台、天井から吊り下げられたランプ、そしてコート掛けのみというきわめてシンプルな舞台に、いかに「死者」を招くか。はじめは観客の意識のなかには存在していなかったそれがしだいに姿をあらわしていくさまは、小田の戯曲と演出の見事さにつきる。昼間の公演であったが、舞台奥の壁一面の窓ガラス(おもての道路がまる見え)からの明るい逆光を背景に浮かび上がる人物のシルエットは印象的。夜の公演ではどのように見えたのか興味深い。

 

ふたりの女優はともに魅力的な声とたしかな演技力のもちぬしで、観るものを最後までひきつけていた。助川のすっとした立ち姿やピュアな表情は、与えられた役割にぴったり。魅力的なまなざしを観客席に送りつづけていた橋本は、しばしば名詞と助詞とのあいだに間をとることが要求される小田演出独特のリズムを自然に聞かせ、この不思議なひと幕全体に明確な輪郭をあたえた。

 

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