黒井緑朗のひとりがたり

きままに書きたいことを書き 云いたいことを云う

歌舞伎/能

四月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

平成最後の歌舞伎座、夜の部。 『実盛物語』は十数年ぶりという仁左衛門の実盛。七十五歳になっての実盛は最年長記録ではないかと自身が語っているが、その颯爽とした明るさは衰えるどころかいっそう増している。きっぱりと派手に身体が動きながら、それでい…

四月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

平成最後となる歌舞伎座は、ベテラン幹部と次世代それぞれの見せ場のある狂言立て。昼の部は出番はわずかではあるが存在感を示す藤十郎、菊五郎、吉右衛門らの芸と、次世代の堅実な実力派による古典。 『平成代名残絵巻』は新作の絵巻物ということで、内容は…

三月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

『盛綱陣屋』は仁左衛門の盛綱。なんども演じたあたり役である。その芝居のドラマを現代の観客にもわかりやすく、しかしあくまで型のなかに求めるという仁左衛門らしさが生かされた傑出した舞台。 和田兵衛とのやりとりは表面上はぐっとおさえてはいるが、言…

国立劇場三月歌舞伎公演(国立劇場・小劇場)

三月の国立劇場はいつもとちがって小劇場での公演。そして、上置きの中村又五郎以外はいずれの演目とも初役ぞろいという新鮮な舞台。 『御浜御殿』は真山青果の代表作『元禄忠臣蔵』のなかでもきわめて上演頻度が高いもの。近年では片岡仁左衛門があたり役と…

三月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

三月歌舞伎座の昼の部は、あまり上演されないめずらしい演目や場がならぶ。 『女鳴神』はいわずとしれた歌舞伎十八番『鳴神』の女版。初代團十郎が『鳴神』を初演した元禄九年、おなじ年にすでに上演されたもので、今回は二十七年ぶりの上演。神通力で雨が降…

二月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

二月の夜の部は『熊谷陣屋』から。 近年では毎年のように白鷗か吉右衛門のいずれかが演じているように感じるが、今月は吉右衛門の熊谷で。花道の出はあえて気持ちを出さず、数珠をしまうのもきわめて最小限の動き。それがかえって悲痛な空気を醸し出している…

二月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

今月は初世尾上辰之助(三世尾上松緑)の三十三回忌として、ゆかりのある狂言だて。故・辰之助の盟友であった菊五郎や子息の松緑がそのあたり役(「鮓屋」は辰之助は若い頃にやっただけなので、祖父二世松緑のあたり役か)を演じる。 『義経千本桜』から「鮓…

海老蔵の市川團十郎襲名が決定

十一代目市川海老蔵が、来年(二〇二〇年)の五月に市川團十郎の大名跡を十三代目として襲名することが発表された。成田屋の嫡男としては、いずれはそうなるであろうことは明らかであったにせよ、正式に発表され喜ばしいことこのうえない。 歌舞伎の世界に存…

寿初春大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

初芝居の昼の部は、いずれも明るく華やかな演目が並ぶ。 『三番叟』に続いて『吉例寿曽我』の外題で出されるのはみなれた「対面」ではなく、工藤祐経の妻梛の葉に曽我箱王と兄の一万が対面するという珍しい一幕。 梛の葉を演じるのは九月に長期療養から復帰…

梅若会定式能『船弁慶』(梅若能楽会館)

新年最初の観能は一月五日梅若会定式能での『船弁慶』(小書「重キ前後之替」)。 シテは山中迓晶。もともと細部にいたるまで丁寧な美意識が貫徹するこのひとらしい、美しさに満ちた芸を堪能した。 前シテの静は橋懸りの出こそかたく感じられたが、「そのと…

初春歌舞伎夜の部(新橋演舞場)

新橋演舞場は正月恒例の海老蔵を座頭にすえた歌舞伎公演。初日夜の部を観る。 『牡丹花十一代』は海老蔵一家はじめ一座総出で華やかなお年賀。 『俊寛』は初役で海老蔵が演じる。この場での俊寛は三十代後半という設定だが、流罪の暮らしが長かったからとは…

寿初春大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

一月は東京だけでも四ヶ所、ほかの都市でも興行があるために、初芝居とは名ばかりのさびしい座組になることも少なくないが、二〇一九年正月の歌舞伎座は松本白鸚と中村吉右衛門のけっして共演しない二人を軸にした座組。まずは夜の部初日を観る。 『絵本太功…

十二月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

夜の部はなんといっても坂東玉三郎から若手女形へ『阿古屋』が受け継がれるということが注目の舞台。二十五日興業のうち、十四日間は玉三郎自身が、残りは中村梅枝と中村児太郎が交代で阿古屋をつとめるという変則で、いわば公開の場での芸の継承である。 そ…

十二月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

師走の歌舞伎座。特に昼の部は当月唯一の幹部役者ともいえる玉三郎も不在なためいささかさびしい座組だが、若手の奮闘により充実したものになった。 『幸助餅』は云うまでもなく松竹新喜劇を代表する名作人情劇。15年前に現・鴈治郎が歌舞伎として上演、以来…

十一月顔見世歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

夜の部に続いて昼の部。 『お江戸みやげ』は短いがうまくまとまった佳品で、 昭和では十七代目勘三郎と守田勘弥の、 平成では七代目芝翫と富十郎の名コンビによって演じられてきた。 七年前には十代目三津五郎と鴈治郎によってひさびさに上演されたが、その…

十一月顔見世歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

中日もとっくに過ぎて、ようやく観ることのできた歌舞伎座。毎年のことながら顔見世とは名ばかりで、菊五郎と吉右衛門それぞれの一座に、猿之助が加わるという座組。 『楼門五三桐』は吉右衛門の石川五右衛門。今月は出番が少ないためか「絶景かな、絶景かな…

十月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

十八世中村勘三郎の、もう七回忌になるのかという追善興行である。当月夜の部は勘九郎・七之助を中心に、個人とゆかりのある仁左衛門・玉三郎らが顔をそろえる。 『吉野山』は勘九郎の忠信に玉三郎の静御前。 玉三郎は花道の出からすでに踊ることをひたすら…

通し狂言『平家女護島』(国立劇場・大劇場)

いつもは二段目の切「鬼界島 の段」が『俊寛』として上演されるのみの『平家女護島』。今回は通し狂言と銘打ってはいるがもちろん全五段の通しではなく、いつもの「鬼界島」の場面の前後に「六波羅清盛館」と「敷名浦」をつけくわえたもので、平成七年におな…

九月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

昼の部の幕開きは『金閣寺』から。 脳梗塞からのリハビリ中の中村福助、五年ぶりの出演となる舞台である。自身の歌右衛門襲名が発表された直後におきた悲劇。こうして歌舞伎座でふたたびその姿を目にするだけで感慨深い。役は動きも科白もわずかな慶寿院だが…

『翁』『井筒』『乱』(国立能楽堂)

昭和五八年九月に開場した国立能楽堂開場が、三十五周年を記念して催す公演のひとつ。能楽界を代表する重鎮たちの競演や、普段は見られない特殊演出が見ものである。 『翁』は、珍しい「松竹風流」の小書での上演。金剛永謹の翁は堂々たる体躯、朗々とした声…

九月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

吉右衛門の十八番ともいえる『俊寛』。初代吉右衛門のあたり芸だったこともあり、当代も頻繁に取り上げるのでまたかの感はあるが、これがまた傑作である。 『俊寛』は義太夫狂言のなかでもいささか特殊な演目である。長い間の貧しい島暮らしゆえに体力の衰え…

八月納涼歌舞伎第三部(歌舞伎座)

『盟三五大切』の久々に歌舞伎座での上演である。幸四郎をはじめとした若手中心の一座だが、間違いなく今月の白眉であり、また近年上演された南北作品のうちでも特筆すべき舞台であった。 四世鶴屋南北は、少し遅れて活躍した河竹黙阿弥とともに江戸の「悪」…

八月納涼歌舞伎第一部(歌舞伎座)

三部制の八月歌舞伎座。まずは第一部を観る。 『花魁草』は昭和56年に七世梅幸にあてて北条秀司が書き下ろした新歌舞伎。新派でも一度取り上げられたのち歌舞伎としては7年前に新橋演舞場で久しぶりに再演され、今月が再々演である。 江戸をおそった地震と火…

七月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

市川海老蔵を中心とした座組が定着するようになった7月の歌舞伎座だが、長らくそこを指定席としていた三代目市川猿之助(現・猿翁)時代の伝統を引き継ぐかのように、海老蔵もまた創意ある演出による復活狂言や、エンターテインメント性の強い舞台を上演し続…

六月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

夜の部は初夏らしい狂言二本立て。 『夏祭浪花鑑』は歌舞伎座建て替え中の2011年の6月以来、ちょうど7年ぶりとなる吉右衛門の団七。 結論から云えばいささか低調な『夏祭』であった。 まず、初日からまだ数日とはいえ、科白が怪しい役者が多すぎること。また…

六月大歌舞伎昼の部(歌舞伎座)

『妹背山婦女庭訓』から「御殿」の場。 前半の主役である鱶七は松緑。拡がりに欠く発声や歌舞伎役者としては長すぎる四肢や小さな頭というハンディがありながら、近年それを乗り越え少しづつ成果を残してきた松緑のこと、期待を込めて観る。 声についてはよ…

五月大歌舞伎夜の部(歌舞伎座)

尾上菊五郎家にとって、『白波五人男』の弁天小僧菊之助は紛れもなく五代目以降受け継がれてきた「家の芸」である。 菊五郎が数年前に前回この役を手がけたとき、「浜松屋」「稲瀬川勢揃」だけでなく「立腹」「山門」までを半通しで出し、それに合わせて「こ…